沢木欣一の俳句 セレクト
雪晴れに足袋干すひとり静かなる|沢木欣一|昭和14年作
しぐるるや窓を掠むる鳥つぶて|沢木欣一|昭和14年作
世の寒さ鳰の潜るを視て足りぬ|沢木欣一|昭和15年作
梨売りの頰照らし過ぐ市電の燈|沢木欣一|昭和15年作
おびたゞしき靴跡雪に印し征けり|沢木欣一|昭和15年作
寒燈に海鳴りのみを聴くものか|沢木欣一|昭和15年作
セルを着て稚き金魚買はんなど|沢木欣一|昭和16年作
雪しろの溢るるごとく去りにけり|沢木欣一|昭和17年作
妹と東京に会ふ梅雨明るし|沢木欣一|昭和17年作
天の川柱のごとく見て眠る|沢木欣一|昭和17年作
春近し雪にて拭ふ靴の泥|沢木欣一|昭和18年作
松風や末黒野にある水溜り|沢木欣一|昭和18年作
蕎麦畑のなだれし空の高さかな|沢木欣一|昭和18年作
秋山の襞を見ている別れかな|沢木欣一|昭和18年作
南天の実に惨たりし日を憶う|沢木欣一|昭和20年作
梅雨の土かゞやきて這う蛆一つ|沢木欣一|昭和21年作
短夜の飢えそのまゝに寝てしまう|沢木欣一|昭和21年作
正月の小川跳び越え旅の夫婦|沢木欣一|昭和24年作
出征旗まきつけ案山子立ち腐れ|沢木欣一|昭和24年作
眉濃ゆき妻の子太郎栗の花|沢木欣一|昭和25年作
汽関車の排気小石を鳴らす夏|沢木欣一|昭和26年作
夏河の曲るさゞなみ死者の谷|沢木欣一|昭和27年作
子とゆくや崖跳び降りて初わらび|沢木欣一|昭和28年作
鉄板路隙間夏草天に噴き|沢木欣一|昭和28年作
苜蓿や義肢のヒロシマ人憩う|沢木欣一|昭和29年作
白桃に奈良の闇より藪蚊来る|沢木欣一|昭和29年作
金銀の紙ほどの幸クリスマス|沢木欣一|昭和29年作
わが妻に永き青春桜餅|沢木欣一|昭和30年作
塩田に百日筋目つけ通し|沢木欣一|昭和30年作
一筋の糸引出すや繭躍る|沢木欣一|昭和30年作
梁強し黒土春雨吸ひつくし|沢木欣一|昭和31年作
夜学生教へ桜桃忌に触れず|沢木欣一|昭和33年作
七夕竹弔旗のごとし原爆地|沢木欣一|昭和33年作
子が知れる雪野の果の屠殺場|沢木欣一|昭和34年作
赤とんぼ現場に拾ひダムに放つ|沢木欣一|昭和35年作
からからのひとでを拾ひ三鬼亡し|沢木欣一|昭和37年作
炎天に犬身振ひの骨の音|沢木欣一|昭和37年作
雑草としてたんぽぽを刈り尽す|沢木欣一|昭和38年作
父の忌の身を沈めたる杉菜原|沢木欣一|昭和38年作
紅梅や妻に童女の時永く|沢木欣一|昭和39年作
良寛の乞食のみち田植かな|沢木欣一|昭和39年作
伊豆の海紺さすときに桃の花|沢木欣一|昭和40年作
花の雨延年舞の白足袋に|沢木欣一|昭和41年作
高館の崖のもろさよ花菫|沢木欣一|昭和41年作
棺かつぐときの顔ぶれ荒神輿|沢木欣一|昭和41年作
群羊の一頭として初日受く|沢木欣一|昭和42年作
武蔵野は春泥の香ぞ達磨市|沢木欣一|昭和42年作
ほほづきの色地に触れしところより|沢木欣一|昭和42年作
万燈のまたたき合ひて春立てり|沢木欣一|昭和43年作
天心にゆらぎのぼりの藤の花|沢木欣一|昭和43年作
赤土に夏草戦闘機の迷彩|沢木欣一|昭和48年作
還らざる島苦瓜の汗ねばり|沢木欣一|昭和48年作
日盛りのコザ街ガムを踏んづけぬ|沢木欣一|昭和48年作
夕月夜乙女の歯の波寄する|沢木欣一|昭和48年作
月の海ニルヤカナヤへ魂送り|沢木欣一|昭和48年作
世果報来い世果報来いとて神踊り|沢木欣一|昭和48年作
豊年を甘世と呼べり島人は|沢木欣一|昭和48年作
鳥帰る水と空とのけじめ失せ|沢木欣一|昭和44年作
地の冷えに牡丹花びらこぼさざる|沢木欣一|昭和44年作
朴咲くや津軽の空のいぶし銀|沢木欣一|昭和44年作
蜻蛉を翅ごと呑めり燕の子|沢木欣一|昭和44年作
てのひらの鮎を女体のごとく視る|沢木欣一|昭和44年作
雪柳花みちて影やはらかき|沢木欣一|昭和45年作
赤富士の胸乳ゆたかに麦の秋|沢木欣一|昭和45年作
炉火明り夫婦抱き寝の一と呎|沢木欣一|昭和46年作
手を拍つて鯉をはげます十三夜|沢木欣一|昭和46年作
砂取り節うたへば応ふ磯鶫|沢木欣一|昭和46年作
養生や朴一本の緑蔭に|沢木欣一|昭和47年作
せきれいは尾を振りおのれ確かむる|沢木欣一|昭和47年作
笛ひゞく螢袋の筒花に|沢木欣一|昭和48年作
塔二つ鶏頭枯れて立つ如し|沢木欣一|昭和48年作
能登恋し雪ふる音のあすなろう|沢木欣一|昭和49年作
穴に入る蛇あかあかとかがやけり|沢木欣一|昭和49年作
朴若葉胎蔵界の風吹けり|沢木欣一|昭和50年作
秋晴の空気を写生せよと言ふ|沢木欣一|昭和50年作
立冬のことに草木のかがやける|沢木欣一|昭和50年作
草引きて夕べは甘きもの欲す|沢木欣一|昭和51年作
佐渡見えて海の時雨に遇ひにけり|沢木欣一|昭和51年作
蜥蜴生れ人のけはひへふりむけり|沢木欣一|昭和52年作
雀の巣あるらし原爆ドームのなか|沢木欣一|昭和52年作
秋山にてのひらほどの墓なりき|沢木欣一|昭和52年作
荒縄の鮭寂光を放ちをり|沢木欣一|昭和52年作
春の風邪蜂蜜なめてしづめたり|沢木欣一|昭和53年作
枯山に火を点じたり雉子の頰|沢木欣一|昭和53年作
野に出でて鈴振るばかり偽遍路|沢木欣一|昭和54年作
近づけば紅葉の艶の身に移る|沢木欣一|昭和54年作
あめつちのくづれんばかり桜ちる|沢木欣一|昭和55年作
緑蔭に赤子一粒おかれたり|沢木欣一|昭和55年作
白菖蒲風の離れるときゆらぐ|沢木欣一|昭和55年作
水浸き田の上の墓なる大納言|沢木欣一|昭和55年作
瓜坊の花野の寝床月のぞく|沢木欣一|昭和56年作
行く水のまがね光りや曼珠沙華|沢木欣一|昭和57年作
かさゝぎの巣をあきらかに枯木立|沢木欣一|昭和57年作
いてふ黄葉の隙の青空母癒えよ|沢木欣一|昭和58年作
笛の音の一気に春を呼びにけり|沢木欣一|昭和59年作
終戦日ちちはは夢に現はれし|沢木欣一|昭和59年作
そら豆をむく刻もある亭主かな|沢木欣一|昭和60年作
上官を殴打する夢四月馬鹿|沢木欣一|昭和62年作
撫子の花野浄土となりにけり|沢木欣一|昭和62年作
空中に白鳥の腋汚れなし|沢木欣一|昭和63年作
なづな粥泪ぐましも昭和の世|沢木欣一|昭和64年作
八雲わけ大白鳥の行方かな|沢木欣一|平成元年作
雪明り白鳥明り越の国|沢木欣一|平成元年作
秋のばらの自己主張無きがよし|沢木欣一|平成2年作
遠野なる河童の皿の氷かな|沢木欣一|平成3年作
ひきがへるバベルバブルと鳴き合へり|沢木欣一|平成3年作
むくげ咲く朝の籠の鵜深眠り|沢木欣一|平成3年作
大国てふ嫌な言葉や毛虫焼く|沢木欣一|平成4年作
弓張りの湾春潮の交響す|沢木欣一|平成6年作
水浴びの子を見ず遠野晩夏かな|沢木欣一|平成6年作
声でわかるからだの具合額の花|沢木欣一|平成7年作
浦上キリシタン深雪に埋もれ消えにけり|沢木欣一|平成7年作
死の一字遺し霰に消えにけり|沢木欣一|平成8年作
役立たぬ夫を許せよ断腸花|沢木欣一|平成9年作
泥の好きな燕見送る白露かな|沢木欣一|平成9年作
夕焼が好きで眺めてゐたりける|沢木欣一|平成9年作
出会は箕面の紅葉浄土かな|沢木欣一|平成9年作
春鰯二階暮しや発心寺|沢木欣一|平成10年作
妻の裸初めて描き征きにける|沢木欣一|平成10年作
丹波栗三つを墓のてのひらに|沢木欣一|平成10年作
剃り上げて青爽やかに能登の僧|沢木欣一|平成11年作
雉子鳴いて坐禅始まる大寺かな|沢木欣一|平成12年作
牡丹一花綾子の水を捨てし場所|沢木欣一|平成13年作
病ひよし百日紅に帰りたし|沢木欣一|平成13年作
沢木欣一
細見綾子の俳句 セレクト